金田一耕助の事件簿034
被害者総数9名、警察は何をしている！
「吸血蛾」（横溝正史）角川文庫
アトリエに送り込まれた
木箱の中には、
乳房を食いちぎられた
女性の死体が。
それはファッション界の女王･
浅茅文代の専属モデル･
加代子のものだった。
相次いで目撃される狼男の姿。
やがてモデルたちが
次々に狙われる。犯人は…。
連続して復刊される角川文庫の
横溝正史･金田一耕助シリーズ。
ついに｢吸血蛾｣も登場しました。
東京を舞台とした金田一ものとしては
珍しくエロスの要素の
うすい作品ですが、
グロテスクさは色濃く表れています。
横溝の他の作品とはやや色合いを
異にする作品となっています。
【事件簿File-034｢吸血蛾｣】
〔事件発生〕
昭和29年10月(東京)
〔依頼人〕
専属モデルクラブ｢虹の会｣の
モデル女性達。
〔捜査関係者〕
樋口警部補…四谷署捜査主任。
山口刑事…四谷署刑事。
海野警部補…武蔵野署捜査主任。
池田刑事…武蔵野署刑事。
村上･山崎･佐藤･小森刑事
…警視庁刑事。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
浅茅文代
…新進気鋭の服飾デザイナー。
専属モデル集団｢虹の会｣を持つ。
川瀬三吾
…新東京日報記者。服飾文化担当。
滝田加代子
…虹の会モデル。菫色の蛾。
最初の犠牲者。
有馬和子
…虹の会モデル。緑色の蛾。
二番目の犠牲者。
葛野多美子
…虹の会モデル。藍色の蛾。
三番目の犠牲者。
志賀由起子
…虹の会モデル。赤色の蛾。
赤松静江
…虹の会モデル。青色の蛾。
日高ユリ
…虹の会モデル。橙色の蛾。
杉野弓子
…虹の会モデル。黄色の蛾。
川瀬に好意を持つ。
村越徹
…文代の弟子。
以前は日下田鶴子の愛弟子。
長岡秀二
…文代のパトロン。
日下田鶴子
…落ち目になった女流デザイナー。
江藤俊作
…文代を目の敵にする毒舌老人。
昆虫採集が趣味。
伊吹徹三
…文代がパリで同棲していた男。
狼のような男
…文代の周囲に出没する謎の男。
ムッシューQ
…文代を脅迫する謎の男。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
金田一耕助…私立探偵。
本作品のやや異なる色合い①
化け物キャラ･狼男登場
いきなり狼男が登場します。
こうした｢化け物キャラ｣は
乱歩が得意とするところですが、
横溝は戦前の由利･三津木シリーズには
頻繁に起用したものの、
戦後はあまり登場させていません。
金田一耕助シリーズの中でも
きわめて異色のキャラクターです。
本作品のやや異なる色合い②
複数の犯罪の集合体
殺人事件のほかにも
死体損壊･死体遺棄、恐喝、密入国と、
複数の犯罪が描かれるのですが、
それらが実は
同一犯の仕業ではないところが
本作品の構成を複雑にしています。
本作品のやや異なる色合い③
なんと被害者総数9名
被害者は最終的には9名に上ります。
7人の専属モデルが
次々に殺害されているのに
警察が保護しなかったこと、
最後の3人が行方不明になってから
3週間もの間、
行方を突き止めることが
できなかったこと、
さらには殺人者に
先を越されてしまったこと、
関係者の中に犯人がいることが
予想されながらも
監視等を行った形跡がないこと、
等々、警察と金田一の
不手際ばかりが目立ちます。
この頃の警視庁は忙しすぎて人員配置が
ままならなかったのでしょうか。
このように｢異色｣であるがゆえに
｢疵｣もまた多い作品であることは
仕方ありません。
しかしながら東京を舞台とした
金田一ものの長編作品として
魅力あるものに仕上がっていることも
また事実です。
まずは復刊を祝いましょう。
（2022.5.13）
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